
背中の筋肉には、わきの下の広背筋をはじめ、首から骨盤までたくさんの筋肉があり、協調して働いています。
首・肩・肩甲骨・腰の周辺などが硬くなってくると、柔軟性や関節の可動域が狭くなって血流も悪くなり、日常動作の妨げや疲労がたまる要因になることもあります。
この記事では、背中の筋肉の構造と働き・ストレッチの方法・効果を上げるためのポイントをご紹介します。
背中の筋肉の構造と働き

背中側の筋肉には、広背筋(わきの下)・大円筋(腕の付け根)・三角筋後部(肩の後ろ)・僧帽筋(肩甲骨の間)・菱形筋(僧帽筋の深層)・脊柱起立筋(背骨の周辺)など複数の筋肉があり、協調して働いています。
もっとも大きい広背筋は、背中の中部~下部(わきの下)に広がり、起始(筋肉のスタート地点)が広く、まず脊柱周辺の第6・7胸椎(きょうつい)から第5腰椎(ようつい)にかけての棘突起(きょくとっき)。
さらに骨盤の正中仙骨稜(せいちゅうせんこつりょう)・腸骨稜(ちょうこつりょう)の後方、第9・10肋骨と広い範囲から始まり、上腕骨の上部(小結節稜:しょうけっせつりょう)に付着しています。
広背筋には、主に肩甲帯(肩・腕)を上から下に引く働き(肩関節内転)、または前から後ろに引く働き(肩関節伸展)があります。
(この他にも、腕を胸の前から後ろへ引く水平外転、腕を内側へ回す内旋動作などがあります)
大円筋は、背中側の腕の付け根の小さな筋肉で、肩甲骨の外側縁・下角(がいそくえん・かかく)から始まり、上腕骨の小結節稜に付着しています。
大円筋は、広背筋の働き(肩関節内転・伸展・内旋)を補助する役割を果たしています。

三角筋後部(=肩甲棘部:けんこうきょくぶ)は、肩の筋肉の後ろ側にある筋頭で、肩関節の伸展・水平外転・外旋(腕を後ろにひねる動作)に働きます。(三角筋後部は、肩のトレーニングとして行われることが一般的です)
僧帽筋は、背中の中央から上部の表層に広がる筋肉で、筋肉の起始・停止(筋肉の端と端。体の中心に近いほうが起始:スタート地点)、筋線維の走行により上部・中部・下部線維に分けられています。
上部線維(筋肉は下方向へ走っているので、下行部と呼ばれています)は、首の付け根(後頭骨上項線:こうとうこつじょうこうせん、外後頭隆起:がいこうとうりゅうき、頚椎の棘突起:けいついのきょくとっき)から始まり、肩甲骨の肩峰(けんぽう、肩の先の部分)に付着しています。
上部線維は、主に肩甲骨の上方回旋(じょうほうかいせん:肩をすくめる動作)に働き、三角筋(肩)の働きを補助する役割を果たしています。
(そのため、僧帽筋上部は肩のトレーニングとして行われることが一般的です。上部が発達すると、首の付け根から肩の筋肉が盛り上がってきます。その他にも、肩関節の内転・挙上・頭頸部の伸展:とうけいぶのしんてん、首を反らす動作に働いてます)
中部線維(筋線維は、横向きに走っているので、横行部と呼ばれています)は、第7頚椎から第3胸椎の棘突起(きょくとっき)・棘上靭帯(きょくじょうじんたい)から始まり、肩甲骨上部の肩甲棘(けんこうきょく)に付着しています。
中部線維は、肩甲骨の内転(背中側で、肩甲骨を寄せる動作)に働いています。
下部線維(筋線維は上に向かって走っているので、上行部と呼ばれています)は、第4から第12胸椎の棘突起・棘上靭帯から始まり、肩甲棘の下部に付着しています。
菱形筋(りょうけいきん)は、僧帽筋の深層にある薄い筋肉で、大菱形筋は第1~第4胸椎の棘突起から始まり、肩甲骨の内側(内側縁)下部に付着しています。小菱形筋は、大菱形筋の上部に位置し、第6~第7頚椎・第1胸椎の棘突起から始まり、肩甲骨の内側縁上部に付着しています。
菱形筋は、肩甲骨の内転・挙上・下方回旋(肩甲骨を、外回りに回転させる)働きをしています。
脊柱起立筋は、脊柱(背骨)周辺の筋肉の総称ですが、トレーニングの分野ではとくに下背部(腰の周辺)を指して使われることが多いです。
脊柱起立筋の主な働きは、体幹部の伸展(背中を反らす)動作になります。
(その他にも、体幹の回旋⦅ひねり⦆・側屈⦅横へ倒す⦆動作、頚椎の伸展⦅首を後ろに反らす⦆・回旋・側屈動作があります)
背中のストレッチのやり方

広背筋のストレッチは、腕を頭上へ挙げ、肩関節を外転(体の側方・反対方向へ伸ばす)ようにすると効果的です。
ストレッチの方法は、
・立位または座位で片方の腕を挙げ、挙げている側の足(座って行っている場合は座骨:骨盤)に重心を乗せて固定します。
・みぞおちを中心に、挙げた手が反対方向に引かれるよう、上体を横へ倒していきます。
・余裕があれば、指先を組むか、反対の手で手首のあたりを持って引くようにすると、さらにストレッチがかかります。

・バリエーションとして、手を前方へ伸ばすやり方もあります。
・四つん這いの姿勢から手のひら(または手の甲)を床につき、背中を軽く弓なりに反らせて、腰を後方へ引いていきます。
手のひらを下に向けて手幅を広くすると広背筋上部・外側と大円筋に、手の甲を下にして手幅を狭くすると広背筋の下部まで伸びていきます。
ヒザを閉じ、骨盤を後傾させる(背中を丸める)と、脊柱起立筋(とくに腰の周り)にストレッチがかかり、またリラックス効果も高くなります(ヨガのチャイルドポーズ)。
・座った姿勢で手を前方へ伸ばし、背中側で肩甲骨を横へ開いて背中をを丸めると、僧帽筋・菱形筋(肩甲骨の周り)にもストレッチをかけることができます。
15~30秒で1~3セット、ゆっくりと伸ばしていくようにすると効果的です。
効果を上げるためのポイント
・上体を横に倒すのにつられて、骨盤も引かれて横に倒れないようにします。骨盤はまっすぐに安定させるか、もしくは上半身と反対方向へ引かれるようにイメージして行うと、広背筋をしっかりと伸ばすことができます。
(立って行う場合は、足を少し広げて行うと安定します)
・上腕の内旋・外旋(手のひらの向き)により、広背筋の重点的に伸びる部分に変化を加えることができます。
手のひらを上に向けると広背筋の上部・外側が、下に向けると広背筋の下部のほうまで伸びる範囲が広がります。
終わりに
背中の筋肉には、わきの下の広背筋をはじめ、首から骨盤までたくさんの筋肉があり、連動して働いています。
背中の筋肉がほぐれてくると、首・肩甲骨・背骨・骨盤周辺の動きもスムーズになり、疲労回復や日常動作の向上など、さまざまな効果が期待できます。
ぜひストレッチを定期的に採り入れて、疲れを取り除いて、アンバランスによるコリ・痛みを予防していきましょう。